真珠腫性中耳炎について

ー耳だれ、難聴だけでは済まない危険なタイプの中耳炎ー


1)成因

真珠腫性中耳炎とは鼓膜の一部分が奥のほうに窪んで(これを内陥といいます)ポケット状となり、その中に垢がたまる病気です。

中耳腔は、中耳と鼻の奥の上咽頭をつなぐ耳管という通路を経て間歇的に換気が行われています。耳管の壁は主に軟骨でできていてこの軟骨には筋肉が付いています。筋肉の他方の端は咽頭(軟口蓋)に伸びていて、大きく口を開いたり嚥下をしたときにこの筋肉が収縮し、耳管が開いて空気の出入りが起こります。つまり中耳は完全には閉鎖されてはおらず、ときおり外界に開放される半閉鎖腔ということになります。ところが何らかの原因でこの耳管の機能が障害されると中耳腔内の空気は粘膜を通して吸収されるのみとなり補われることがなくなりますから、陰圧となっていきます。これが鼓膜の内陥を引き起こす原因と考えられています。飛行機の離着陸時、高層ビルのエレベーターでの昇降時、車で山に登攀・下山する時、海水浴やプールでの潜水の時などに「耳ぬき」が不得手な方は要注意です。

 それでは、鼓膜が内陥するとなぜ真珠腫ができるのでしょうか?鼓膜は厚さ約0.1mmの薄い膜状の組織ですが、その外側の面は皮膚、内側の面は粘膜でできています。皮膚の最外層は角質層という薄皮で覆われていて、古くなると順次剥がれ落ちるしくみになっています。通常の鼓膜面でこの現象が起こっても、剥がれ落ちた角質層は耳垢として外に押し出されるか人為的に取り除かれるので問題になりません。しかし内陥したポケットの中では剥がれ落ちた角質層(デブリと呼ばれています)が外に出て来れず、塊となって蓄積されます。これが真珠腫であり、光沢のある不透明な白色が真珠に似ていることからその名が付けられました。


2)症状と合併症

デブリの内部は、外耳道にもともと生息する細菌などの絶好の繁殖場所となり、初期の症状として耳漏と耳閉塞感が出現します。真珠腫がもたらす大きな問題点は、次の段階で起こる骨破壊性にあります。中耳腔は側頭骨という硬い骨の中にある空洞ですが、真珠腫はその周囲に接した骨を侵食する性質を持っています。特に細菌感染がある場合には侵食のスピードが速くなります。骨が侵食されるとポケットの大きさが一回り拡大し、さらにデブリの蓄積が進むという悪循環に陥ります。最初に鼓膜の縁の骨(太鼓の皮の枠にあたる)が侵食され、次に耳小骨、特にキヌタ骨が破壊を受けます。これによって伝音難聴という状態になります。次に起こるのは三半規管に穴があく迷路瘻孔で、激しい回転性のめまいを起こすことがあります。また半規管の直下にある顔面神経管が破壊されると顔面神経麻痺の危険性が出てきますし、迷路瘻孔から感染を起こし内耳炎になると聾になる危険性が生じます。中耳腔は、上方は中頭蓋窩、後方は後頭蓋窩と隣り合っており、頻度はそう多くありませんが放置すれば髄膜炎、頭蓋内膿瘍などの重い合併症が起こる可能性もあります。


3)診断

耳鼻咽喉科を受診すれば診断は比較的容易です。鼓膜の一部にポケット状の深い内陥部があり、デブリや耳漏が認められれば真珠腫と診断できます。次に進行の度合いについての診断が必要となりますが、これには聴力検査とXCTの所見が主な手がかりとなります。特に高分解能のXCT0.5mm程度の大きさの骨の状態を描き出すことも可能で、耳小骨の破壊、迷路瘻孔の有無、顔面神経管の破壊、頭蓋底の破壊などを調べるのに必須の検査です。細菌検査も治療をする上での重要な情報となります。


4)治療

初期の真珠腫で、外来処置室でデブリの清掃ができる場合には通院で対応できることもありますが、進行した例では多くの場合手術が必要となります。従来は局所麻酔での手術もよく行われていましたが、昨今ではほとんどが全身麻酔で行われます。入院期間は症例によっても異なりますが、当科では2週間程度を標準としています。

 

手術では骨を削って真珠腫を摘出し聴力を再建しますが、その治療目標は、①真珠腫を完全に摘出して再発を防ぐ、②聴力を改善させる、③術後のメインテナンスを容易にする、の3点に集約されます。まず①についてですが、基本的に真珠腫は再発することが決して稀ではありません。再発には、真珠腫の取り残しによる再発(遺残性再発)と鼓膜が再び内陥して起こる再発(再形成再発)とがあります。②の聴力改善という目標は、種々の合併症が起こる可能性のある真珠腫ではどうしても二の次になってしまう場合もありますが、いろいろなタイプの再建術が工夫され、また2回の手術に分けて行う方法も考案されています。③の術後メインテナンスも重要なポイントであり、中耳が安定するまでの期間をいかに短縮し安定した状態をいかに維持するかということを目標にいろいろな術式が考案されています。

 

 真珠腫に対する手術法に関しては過去半世紀にわたり議論されていて、絶対的にこれが正しいという術式は確立されていません。術式の分類としては、骨の削り方によって後壁保存型と後壁削開型とに分けるのが一般的です。また出来上がりの形によってクローズ型とオープン型があります。従来のやり方では、後壁保存型の削り方を行えばクローズ型に仕上がり、後壁削開型の削り方ならばオープン型に仕上がります。前者は聴力改善と術後メインテナンスの2点では有利ですが、再発の危険性が高くなります。後者の方法をとると、再発は低く抑えることができますが、聴力改善と術後メインテナンスの点で前者より不利になります。近年ではいくつかのバリエーションが開発されていて、段階的手術、乳突腔充填法、軟組織による後壁再建法などがこれにあたります。当科では、後壁削開型と乳突腔充填法を組み合わせることによりセミオープン型に仕上げ、上記の3つの治療目標をうまく折り合わせるような工夫をしています。治療法はそれぞれの患者さんによっても異なりますから、個別にご相談いただければ幸いと思います。