突発性難聴について


1)成因

突発性難聴とは、突然発症する原因不明の感音難聴(神経性の難聴)であり、3割程度の患者さんでめまいを伴います。最近その発生頻度は増加傾向にあるといわれています。本疾患の病態は疾患の定義上不明なわけですが、循環障害説、ウイルス感染説、自己免疫説などが考えられており、その中でも循環障害説が有力です。


2)治療

突発性難聴とは、突然発症する原因不明の感音難聴(神経性の難聴)であり、治療は副腎皮質ステロイド薬の投与が基本です。これに加えて効果を高めるために、循環改善薬、代謝賦活薬、ビタミン薬、抗凝固薬、血栓溶解薬、星状神経節ブロック、脱線維素原療法、プロスタグランジン製剤、インターフェロン、高気圧酸素療法、マグネシウム製剤など種々の併用治療が試みられています。しかし原因が不明であることも相俟って、決め手となる治療法が定まっていないのが現状です。

産業医科大学病院耳鼻咽喉科頭頸部外科では、ステロイド全身投与に加えて、以前に星状神経節ブロック、プロスタグランジン投与、高気圧酸素療法を併用していましたが、2009年からはステロイド鼓室内注入を併用し、それまでの治療よりも優れた治療結果を得ています。産業医科大学若松病院でもこれと同じ治療法を行っています。


3)ステロイド鼓室内注入療法

鼓室内注入は治療開始から2~4回行います。そのためまず、鼓膜を麻酔して痛みをなくしてから鼓膜を小切開し、鼓膜チューブというパイプを差し込みます。これはもともと子どもの中耳炎に対してよく行う治療法であり、確立した安全な処置です。この鼓膜チューブを通してステロイドの溶液を注入します。最後のの注入が終わったらチューブは抜きます。チューブを抜いた跡の穴はほとんどの場合1ヶ月以内に自然に閉鎖します。


4)ステロイド全身投与

点滴や内服で2週間投与し、次第に量を減らしていきます(漸減療法)。最初の9日間は点滴で後の5日間は内服です。このため入院期間は最短で9日間になりますが、採血などで数値に変動がある場合は入院期間が延びることもあります。ステロイド薬は治す作用も強いのですが、副作用も強く、治療開始前や治療中に血液のデータをチェックする必要があります。副作用の主なものは糖尿病の悪化と肝機能障害です。一般的に比較的少ない量のステロイド薬のときは検査を省略することもありますが、私どもは安全性をしっかり確認するために、投与前と投与中の血液検査は必要と考えています。また万が一副作用が出た場合でも、当院には各領域を専門とする内科医が揃っており、万全の体制で臨むことができます。


5)突発性難聴の治りかたを左右する要因

突発性難聴の治りかたに影響する要因には、①発症から治療開始までの日数、②めまいの有無、③年齢、④治療前聴力、⑤聴力型、⑥治療法、⑦反対の耳の聴力、などがあります。このうち人為的に変えることができるのは、①治療開始までの日数と⑥治療法、の2つです。私たち耳鼻咽喉科医の責務は、より優れた治療法を開発し、患者さんへの啓発によって早期の受診を促すことだと思います。ステロイド鼓室内注入療法は、単独で行えば全身へのステロイド移行がひじょうにわずかであり、重症の糖尿病、高血圧、肝機能障害、消化性潰瘍等の基礎疾患があっても、合併症を心配することなく施行することができます。今後さらに有効性の高い突発性難聴の治療を目指していきたいと考えています。